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映画「はたらく」コメント文 第3弾 [映画「はたらく」情報]

映画「はたらく」コメント文第3弾です。

 

千葉商科大学人間社会学部准教授の佐藤哲彰様からコメントをいただきました。専門は労働時間、労働経済、労働統計等、労働経済論・仕事と生活等の講義を担当されています。

本作品のテーマである「仕事」について研究されている先生です。とても興味深い内容となっております。ぜひご覧ください。

 

 

愛がなければ、何の役にも立ちません。
〜今後の「はたらく」と映画「はたらく」〜 佐藤哲彰

 この映画は大変な傑作だ、と私は考えている。

 それを、2つの視点から説明したい。

 第一は、愛である。

 この作品は、「しょうへいさん」にこんな就労支援(俳優職)を行なったら、何が起こるのか、という、実験的な映画である。

 愛という言葉はよく聞く。私も愛されているし、いくぶんか家族や周囲の人を愛している。しかしこの映画を見て、私は愛について、具体的によくわかっていなかった、と感じた。

 ああ、私は足りなかった。周囲の人がしょうへいさんに示す愛の姿が、笑顔や対応が、おそらく福祉現場の方々だけでなく、私のような教育現場で働く者にも、強い反省を迫るかもしれない。

 私はこのような姿で、困難を抱える若者を受け入れ愛してこなかった。そのような心地よい反省。本当に必要なものに立ち返る、喜びに満ちた反省を、私だけでなく多くの人に迫る。それはこの作品を見た人だけでなく、その大切な隣人をも本当に幸せにする、かけがえのないものである。

 こんな手厚い就労支援は、忙しい現代人には困難かもしれない。だがもし行えば何が起こるのか、本人をどう変え、援助者に何が起こるのか。それが映画という媒体を通して明快に示されている。

 「弱さを与えられた」人間の根源的な偉大さ(なぜだろう?)、潜在能力の素晴らしさを、しょうへいさんからも、かんとくや周囲の人々からも学べる作品である、と私は感じた。

 第二は、「はたらく」である。

 この映画は、人工知能等にルーチンワークを奪われる人類の、新たな「はたらく」モデルを、明快に示しているように思える。

 人間は長年の間、機械に仕事を奪われ、より創造的な業務に移ることを迫られてきたが、それがいっそう進み、それができる人とできない人との所得格差が拡大すると言われる。はたらくとは要求されたことをこなすこと、勤勉・緻密・誠実に実行することを意味したが、今後、ルーチン的な事務職や現業職はかなり機械がやるようになり、そういった雇用も激減する。

 では、人間が発揮すべき創造性とは何か。

 創造性は、矛盾との格闘から生まれる。現実の問題・悩みに、情熱をもって格闘・工夫する中で発揮され、育てられる。愛をもって、粘り強く問題解決に取り組むこと、つまり愛に基づく情熱こそが創造性の母であり、21世紀の標準的な「はたらく」姿なのではないだろうか。

 この映画で「かんとく」はじめ周囲の人々は、しょうへいさんの何かに目を留めて尊敬を抱き、彼と同じ目線で、彼の「はたらく」を我が身の「はたらく」問題と深く結びつけたかもしれない。ここから、彼に合った俳優の仕事をどう定めればいいのか、彼を苦しめていないか、映画になるのかなど、様々に悩みながら、彼の深いニーズをつかもう、形にしようと格闘している。そして終盤のシーンで、その実を見ることになり、この傑作映画が完成した。「しょうへいさんで映画を撮ろう」という斬新な愛の格闘が、この二重の実をみのらせた。

 これこそ、我々が身につけるべき、創造的な「はたらく」姿ではないか。

 この意味で、非常に完成された傑作だ、と私は考えている。愛と格闘が示され、そのリアルな実も明快に示されているためである。

 ストーリー自体は中盤まで苦闘を重ねる姿が描かれている。にもかかわらず飽きさせないのは、映像の力と、しょうへいさんのうちの何か、なによりも出演者の素晴らしい笑顔・語調のゆえだと感じた。この笑顔はどこから来ているのだろうか?必見である。また私が監督を大天才だと思うのは、そのカメラワークに独特の美しさ・素朴な力を感じさせ、音楽とともに飽きさせないためである。これだけでも一見の価値があるかもしれない。

 「たとい私が持っている物の全部を貧しい人たちに分け与え…ても、愛がなければ、何の役にも立ちません。」既に老いも若きも多くが孤立し、生きる意味を失い、傷ついている。ここにVRなど最新鋭の映像技術等が入り込み、人々を虜にする。これは今後深まっていく。

 愛がなければ、本当に何の役にも立たない、と自分に語りかけながら、歩んでいきたい。

 

 

佐藤哲彰(さとうてつあき)千葉商科大学人間社会学部准教授。専門は労働時間、労働経済、労働統計等。労働経済論・仕事と生活等の講義を担当。同大学人間社会学部キャリア委員。



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